テイスティングのアプローチ(1)

ワインの知識

ロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関 WSET(Wine & Spirit Education Trust) が発刊する、ソムリエ向けのワイン教則本「Wines and Spirits(ワイン&スピリッツ)」。2011年版の日本語訳の翻訳を監修した筆者が、この時の記述をベースに、ワインについての知識や蘊蓄(うんちく)を分かりやすく解説します

最初に

テイスティングについては、総合的かつ詳細にワインを描写すると同時に、体系的に捉える必要があります。最初はワインについての「外観」「香り」「味覚」を客観的に描写し、後半はこの描写を基に、ワインの「品質」「熟成度 (飲み頃)」「料理との組み合わせ方」などの結論を導きます。
糖分、酸味、タンニンといったワインの成分については、感じ方も人それぞれですが、多くのテイスターは訓練により、二つのワインのうちどちらが甘いか、酸味が高いか、タンニンが多いかを言い当てられるようになります。さらに練習を積み重ねると、糖分、酸味、タンニンをはじめとする成分を一般的なワインの世界の基準と対比させ、「低い/少ない/弱い」「中程度」「高い/多い/強い」に分類する際、テイスティングの専門家の味覚に近づけるようになります。香りの表現は個人的な要素が強いため、自由に表現しても構いませんが、書き手と読み手の双方が理解できる用語を使わなければなりません。
またテイスティングの目的を明確にしておくとよいでしょう。似たようなワインを数多くテイスティングする場合は、それぞれがどのように異なるかに神経を集中させる必要があります。趣味で投稿する場合などは、ワインの印象を伝える際に、より文学的または比喩的な言葉を使うのが相応しいこともあります。テイスティングの目的は人それぞれですが、系統的なテイスティングのアプローチを習得すれば、ワインについて考慮すべき重要な要素をいつでも思い起こせるようになります。

準備

ワイングラスワインのテイスティングを効果的に行うには、テイスティングに相応しい環境を整えると同時に、自分自身もテイスティングに備える必要があります。理想的な環境とは、ワインの外観を判断するのに十分な自然の明るさがあり、室内がニュートラルな色調で白いテーフル上で行なうのが理想的です。またワインの香りに影響を与えるような匂いがしない場所が必要で、口に含んだワインを吐き出せるスピトゥーンのようなシンクも用意しましょう。
グラスは透明で、洗剤の残り香やタオルで拭いた後の汚れなどが残っていないことを確認します。テイスティングに向くプロ向けのグラスもありますが、ここではグラスの形状を問いません。グラスを軽く回した時に下の方でワインが大きく動いて香りが放たれるように胴の部分が丸みを帯びていることと、その香りが上の方に集まるグラス上部が少しすぼまっている方がいいでしょう。サンプルをグラスに注ぐ時には、いつも同じ量を入れるように心がけます。それは、ワインの外観、香り、味覚を評価する基準を揃える必要があるためです。
テイスター自身の準備としては、口の中にハミガキや風味の強いカレーなどの味が残っていないようにしなければなりません。テイスティングを繰り返すと、ワインを吐き出す時に唾液も吐き出されます。また匂いを嗅ぐ時にアルコールが鼻を乾燥させるます。体内の水分不足は嗅覚が弱めるため、水の補充も必要です。
準備ができましたら、次回は「外観」について解説します。

Tomomi Inoue

Tomomi Inoue

広告および編集の企画・取材・制作を続けて40有余年のライター。数多くの企業の広報活動に携わる一方、ワインジャーナリストや醸造家との親交を通じて、スペインワインの素晴らしさに魅せられ、ポータルサイト「スペインワイン発見!」、販売サイト「特選スペインワイン発見!」を開設するほか、SNSを活用しながらスペインワインの普及に努めている。世界最大のワイン教育機関 WSET が発刊する「Wines & Spirits(レベル3)」日本語版の翻訳・監修をはじめ、ワインにまつわる記事も執筆している。

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