牛追い祭りにはナバーラのロサドがよく似合う
7月6日正午。市庁舎広場はつめかけた群衆で立錐の余地もない。市庁舎のバルコニーから市長が開会を宣言し、チュピナッソと呼ばれる花火の打ち上げを合図に群衆は赤いネッカチーフを振り歓声をあげる。ヘミングウェイは小説『日はまた昇る』の中で「祭りが爆発した」と描写した。スペイン北部のナバーラ県パンプローナで催され「牛追い祭り」として知られるサンフェルミン祭のオープニングだ。
しかし広場には既に開会を待ちきれず、相手が誰であろうと容赦なく、安物の発泡ワインやサングリアをぶっかけあう酔っぱらって血気盛んな若者たちで埋め尽くされている。シャツもパンツも白かった面影などどこにもなく、翌朝からあの牛と走る朝が8日間繰り広げられる。
さて夕方、横断幕を掲げ音楽とともに闘牛場へ向かう「ペーニャ2」の列。手に手に持ったバケツの中身は恐怖のサングリアだ。彼らが陣取るのはソル(日向席)のグラダやアンダナーダと呼ばれる2・3階席。かくして闘牛が終わる頃には、1階席の客は飲み残したサングリアの洗礼を受けることになる。
我々と言えば、あり合わせの材料で作ったボカディージョ(バケットのサンドイッチ)、冷やしたロサドをボタ(酒袋)に詰めて闘牛場に向かうというのが長い間の習慣になっていた。
我々とは・・・、40年ほど前のこと、親しいスペインの友人にヘミングウェイに興味があると口走ったことから、それならサンフェルミンのお祭りに行くべきだと誘われ、以来、毎年のようにお祭りに参加し、あちこちの雑誌に祭りに関する記事を載せてきた。その友人にはパンプローナに友人も多く、いつしか行動を共にするようになっていた。最初は写真を撮ることに夢中だったが、いつしか仲間の雑務係=ワインや食料の買い出し、開会時のパーティやサンフェルミンの日(7日)に行う恒例の路上での食事会の準備など=になっていて、それは美食クラブとの交流へとつながった。
日本人でただ一人、サンフェルミン祭の外国人賞を受賞
「普通のジャーナリストは祭りの表しか見ないが、内部から知る貴重な体験だぞ」。友人はそう言って慰めてくれたものだ。そんな祭仲間の強い推薦もあり、サンフェルミンの祭りにおけるGURI de ANO 2010=2010年外国人賞をいただくことになった。
話を戻そう、ワインの知識もない私は、祭りではロサドが飲まれ、それが常識だと信じていた。当時ナバーラ産ロサドは定評があり、生産量の40%以上を占めていたらしい。しかし赤ワインの人気上昇とともにロサドの生産が減ったとも聞いた。そして夏ともなれば赤ワインに等量のコカコーラを加えたカリモチョというバスク発祥のカクテルが飲まれ、これも祭りの定番となっている。
しっかしー。私としては、闘牛場では、ボタから冷えたロサドを喉に直撃させる快感を忘れ去ることが出来ないのだ。うれしいことに最近ナバーラのロサドが再評価されているらしい。ロサドは決してお祭り専用じゃない。どんな状況にも対応してくれるワインだけに、いざという時に役立つから常備したい一本だよね。ちがう?
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