何、これ!? 届いたワインのボトルを見てちょっと驚いた。スペインのカナリア諸島産のこのワイン、ボトル全体のフォルムもユニークだが一風変わっているのが瓶の口で「ここから注いで、一滴も無駄にしないでね!」と言わんばかりの形をしているのだ。
スペインであってスペインでない「カナリア」
今年9月、ラ・パルマ島の大規模火山噴火で話題になったスペインのカナリア諸島はアフリカ大陸の西岸から西へ100~500kmの大西洋上に位置し、主要7島を中心に自治州を構成する火山列島である。「コロンブス航海誌」によると1492年8月3日にスペインのパロス港近くを出帆し、壊れた舵を直しながら7日に諸島北東端のランサローテ島に向かい、9日にゴメラ島に着くのだが、手前の「テネリフェ島の山の峰から、火が強く燃え出ているのが見えた」と述べている。因みにテイデ山の標高は3718mとスペインで最も高い。
蛇足だが、かつて諸島には犬が多かったことからラテン語の犬(canis=カァニス)が呼称の語源とされ、やはり多かった小鳥をカナリアと呼ぶようになったという。
諸島の中心はサンタ・クルス・デ・テネリフェ。コロンブス最初の航海当時はグラン・カナリア島のラス・パルマスにスペインの総督府があったのだが、ゴメラ島をまっすぐ目指して航海の物資補給をしたのは、ゴメラ島を征服したエルナン・ベラサの未亡人と恋仲にあったからだと言われる。またこの航海のため積まれたのはトロのワインだったというのだが、ここではどうでもいい話だ。
とにかく、カナリア諸島はスペインであって、スペイン本島とは似ても似つかぬ風土を持った地域なのである。
火の山だらけのランサローテ
私がカナリア諸島に行ったときも船だった。コロンブスはランサローテ島の北側を抜けてゴメラ島を目指したが、私たちの船は南側からランサローテ島のアレシフェ港に向かった。島全体がユネスコのエコパークに登録され、島の面積795㎢のほとんどが火山灰や溶岩、火山礫に覆われ、最も高いところでも600mそこそこ。港に近づくと赤茶けた山を背景に四角の家々が海岸沿いに連なっている。水が少なく、平らな屋根で雨水を貯めるための構造だとか。まずはツアーバスでティマンファヤ国立公園に向かう。
18~19 世紀の大規模な噴火活動の中心となった 51 ㎢が保存区域となっていて、専用バスで溶岩地帯を通りながら様々な火山地形が観察出来る。国立公園の入口にある悪魔がデザインされたポップな標識は島出身の建築家セサル・マンリケ(1919-1992)による。島の自然環境保護に生涯をかけたと言われ、彼の作品は島の各所にある。
展望所にもなっている山頂のレストラン「エル・ディアブロ(悪魔)」もマンリケのデザインによるもので、地熱を利用したオーブンの料理が人気で、また岩穴に枯草を放り込むと立ち上がる炎や、小さな穴に水を注ぐと瞬時に水蒸気となって噴き出すデモンストレーションが観光客を楽しませている。
火山噴火とフィロキセラ禍を生き延びたブドウ
公園に隣接する地域にはワイナリーが点在している。一帯が真っ黒な溶岩地帯で、すり鉢状の穴(hoyo)に植えられたブドウはソコス(zocos)と呼ばれる溶岩の石垣で護られ、深さ3mに及ぶものもあると言う。乾燥地帯に加え標高も低く、アフリカからのシロッコと呼ばれる乾いた熱風や北東からの貿易風から護り、湿度を保つためだという。ブドウには適地だと言うが機械化には向かないし、どう見ても生産効率は悪い。ワインづくりに拘る姿勢には驚かされる。
農耕に活躍したのはヒトコブラクダだったというが、今では島一番の人気アトラクション「キャメル・ライド」で活躍している。
中心となるブドウは土着品種のマルバシア。島の環境がフィロキセラ禍も防ぎ、酒精強化されたワインは「カナリー・サック」と呼ばれ17世紀の貴族たちに珍重されたという。今は品種も増えたが島外に出荷される量は極めて少ない。その稀少なワインが今、私の手元に届いたのだ。貴重なワイナリー訪問も、船の出航時間にせかされ、試飲の余裕もなかったのだ。冬の日は短かかく、東に向かう船は激しい風に揺れた。
さて、ランサローテのリスタン・ネグロのロサードとワインは決まった!夕食は何にしようか。
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